【事業承継のイロハを学ぶ】事業承継は準備が9割/経営者の交代はチャンス/サステナグロースカンパニーの創り方とは
【事業承継のイロハを学ぶ】事業承継は準備が9割/経営者の交代はチャンス/サステナグロースカンパニーの創り方とは
30秒サマリー
船井総研ファスの三田氏と一橋大学・楠木氏が事業承継を「第二の創業」「成長のチャンス」として捉え直す論点を扱った回。三田氏は「事業承継は準備が9割」「人的承継と株式承継の両輪で早期から計画的に進めるべき」との見立てを示し、楠木氏は「経営者は最も希少で不足しがちな経営資源」「経営者・所有者の交代こそ既存企業にとって滅多にない大きなチャンス」と論じている。成功定義として三田氏は「サステナグロースカンパニー(持続的に成長する企業)をどれだけ作れるか」を提示している。
登壇者
- 三田二(船井総研ファス 取締役執行役員): 事業承継支援の実務家。M&A・親族内承継・MBO・デューデリジェンス等を支援する立場から、診断〜計画〜実行までの伴走プロセスと成功事例を解説する役割。
- 楠木建(一橋大学大学院 特任教授): 経営学者。事業承継を「経営者という希少資源」「企業の本質的な成長機会」というマクロ・抽象の視点から意味づけする役割。
キーポイント
- 後継者不足の本質: 楠木氏は「経営者という仕事は将来に向けてリスクを伴う意思決定を、外的な物差しに頼らず自分の判断基準で行う特別な仕事であり、いつの時代も最も希少で不足しがちな経営資源」と主張。
- 倒産データの規模感: 帝国データバンクによれば、後継者不在による事業継続困難件数は2023年度586件、2024年度507件で2年連続500件超(動画内で言及された数値)。
- 承継は人的承継+物的(株式)承継の二層構造: 三田氏の整理では、社長交代という人的承継と、株式の承継(贈与・相続にかかる税負担を含む)の両方を同時設計する必要がある。
- 承継パターンは大きく3類型×サブパターン: 三田氏は親族内承継/従業員承継(MBO)/第三者承継(M&A)の3分類と、それぞれ「経営と所有が一致するか分離するか」のサブパターンが存在すると整理。
- オプションの多さが重要: 楠木氏は「どの承継パターンが優れているかは状況次第。本当に重要なのは経営と所有の組み合わせの選択肢を多く持てるか」と主張。
- 準備の早期化=重要なことは緊急ではない: 楠木氏はアイゼンハワーの「重要なことは緊急ではない、緊急なことは決して重要ではない」を引いて、「短い時間幅で緊急性を持って事業承継をやるのは自殺行為」と論じる。
- 承継は第二の創業=成長のチャンス: 三田氏は「事業承継は第二の創業」と位置づけ、楠木氏は「ピンチがチャンスなのではなく、ピンチこそが本物のチャンス。経営者・株主の交代は成熟企業にとって滅多にないチャンス」と踏み込む。
- 成功の尺度はサステナグロースカンパニー: 三田氏は承継後に持続的成長を実現できているかを成功定義とし、船井総研グループ独自の「サステナグローススコア(売上成長率+営業利益率の合計)」で測定していると説明。
詳細展開
章タイトル1:後継者不足の根本原因と事業承継の定義
帝国データバンクのデータでは、後継者不在による事業継続困難の件数は2023年度586件、2024年度507件と2年連続500件を超える水準にある。
主張: 楠木氏は後継者不足の最大の原因を「経営者という仕事の特殊性」に置く。経営者の中心的仕事は「将来に向けてリスクを伴う意思決定」であり、その時点ではどちらが正解か分からないため外の物差しに頼れず、自分の中の判断基準で決断し、周囲をついてこさせる必要がある。「いつの時代も経営者は最も希少で最も不足しがちな経営資源」との見立て。
根拠・データ:
- 後継者不在による事業継続困難件数:2023年度586件、2024年度507件(帝国データバンク)。
- 三田氏は事業承継を「人的承継(社長交代)」と「物的承継(株式の引き継ぎ)」の二層構造と整理。
- 親族内承継が前提だった日本の中小企業で、子供がいない/子供が継ぎたがらないという2方向の事情が同時進行しているとの三田氏の見立て。
章タイトル2:承継パターンの3分類と「経営と所有の分離」
主張: 三田氏は承継パターンを以下に整理。
- 親族内承継:
- パターンA=経営も株式所有も親族
- パターンB=株式所有は親族/経営は幹部従業員(経営と所有の分離)
- 中継ぎ経営者を挟んで、その後息子が引き継ぐ形もあり得る
- 従業員承継(MBO):経営も所有も幹部・従業員へ
- 第三者承継(M&A):
- パターンA=株式は第三者(例:ファンド)に渡すが経営は家族・従業員が継続
- パターンB=経営も所有もすべて第三者に渡す
楠木氏は「どれが優れているかは状況による。重要なのはオプションの多さ」と主張。経営と所有が完全一体化していると取れる選択肢が大幅に減り制約になるとの見立て。
根拠・データ: スライドで承継分類「経営と所有の多様な形」が提示された(動画内スライド参照)。
章タイトル3:「準備が9割」の論理と早期着手
主張: 三田氏は「経営者の教育には時間がかかる(生まれた時から教育しているケースもある)」「優秀な会社ほど株式承継時の税負担が大きく、ウルトラCはない」として、計画的な早期準備の必要性を強調。
楠木氏はアイゼンハワーの言葉を引き、「重要なことは緊急ではない、緊急なことは決して重要ではない」「緊急性が高い=追い込まれている状態では良い意思決定はできない」「同じ能力でも、時間を多く取れば良いソリューションに到達できる」と論じる。「事業承継を短い時間幅で緊急性を持ってやるのは自殺行為」というのが楠木氏の見立て。
根拠・データ:
- 三田氏「自分は元気だ、まだやりたい」という心理から経営者は承継検討を先送りしがち。きっかけは「60歳到達」「病気」「友人経営者の引退」など外発的なものが多いとの観察。
- 楠木氏「事業承継は滅多に経験しない=技能を改善する機会がない」点が最大の難しさと指摘。
章タイトル4:成功事例①ハウジング重兵衛(親族内承継)
主張: 千葉県成田市のリフォーム業ハウジング重兵衛(127年継続、6代目・菅幸生氏)の事例を三田氏が紹介。船井総合研究所が30年来支援し、菅氏は学生時代から経営支援の場に同席、卒業後は2社で修行(修行先選定もコンサルと相談)。社長交代後、職人育成学校・就労支援などの新規事業を立ち上げ、引き継ぎ時20億円弱だった売上が現在50億円規模に到達。「数年で2.5倍程度の売上成長」とされる。
根拠・データ:
- 創業127年、6代目(菅幸生氏)が2019年(120周年)頃に社長交代。
- 売上:承継時 約20億円弱 → 現在 約50億円。
- 「父親から『お前が継げ』とは一切言われなかったが、祖父母から『長男だからやるんだよ』と暗にメッセージを受け、自分が継ぐと感じていた」と菅氏が語っていたとの三田氏の紹介。
- 父子の直接議論は喧嘩になりやすく、第三者(船井総研)が間に入って事業承継チームを構成(経営コンサル+事業承継コンサル+本人)。
章タイトル5:成功事例②夢見る株式会社(M&A/グループイン)
主張: 三田氏は、ロボ団というプログラミング教室を全国展開する夢見る株式会社が一定店舗超の段階でエディオングループ入りした事例を紹介。重見彰則社長は社長を継続したまま100→200→300店舗の拡大に向け取り組み、さらに親会社エディオンの教育事業の部長も兼務する形でグループ親会社の事業にも関与している。
根拠・データ:
- 一定店舗数を超えた時点でエディオングループに参画。
- 社長は重見氏が継続。
- 三田氏「成功要因は徹底した対話。『自分はこういうビジョンを描いている、これを一緒に実現できるか』を対話しながら承継することがM&A成功のポイント」との見立て。
反論・異論: 失敗パターンについて三田氏は「経営の話をしているはずが、人間関係の上下争いに変わると失敗する」と指摘。第三者が「お二人が言っていることは同じだ」と論点を整理する役割の重要性を強調。
章タイトル6:プロフェッショナル介在の必然性
主張: 三田氏は「事業承継は論理的に進むことはほとんどなく、ほぼ感情で進む」と述べ、感情を理解した上で論理的に翻訳して伝えるプロフェッショナルが不可欠と主張。MBOでは従業員の借入や配偶者の反対などのリスクを設計で減らす役割、M&Aではトラブル回避の専門性が求められるとの見立て。
楠木氏は「プロフェッショナルの本質は場数。『こういう時はこのパターン』という知見は膨大な経験からしか出てこない」「AIに聞いても答えが出てこない種類の問題」と指摘。
根拠・データ: 動画内で三田氏は奥様への説明同席など、家庭内コミュニケーションへの介入も実務範囲だと説明。
章タイトル7:成功定義としての「サステナグロースカンパニー」
主張: 三田氏は承継成功の尺度を「企業がその後も成長しているか」と定義。船井総研グループは「サステナグロースカンパニー」概念を提唱しており、急成長カンパニー(一気に伸びてすぐ消える)/普通カンパニー(じわじわ業績低下)/業界1番カンパニー(縮小市場では1番でも下降)/消滅カンパニーといったタイプと対比する形で、「成長投資を重ねながら持続的に成長する」状態を目指すべきと位置づける。
楠木氏は「事業承継の目的が『企業の存続』になってしまうのは良くない。企業は将来に向けた目的を持ち、その会社でなければ作れない価値を生み続け、結果として成長する存在。価値を作った結果としての成長が成功尺度」と論じる。
根拠・データ:
- サステナグローススコア=売上成長率+営業利益率(合計40%超で「サステナグロースしている」と判定)(船井総研グループ独自指標)。
- 東京商工リサーチのデータを船井総研が分析した結果、「創業年数が長いほどサステナグローススコアが下がる(売上成長率と営業利益率が低下する)」傾向が見られる、との三田氏の説明。
- 楠木氏はこの相関を「企業という生物の本質。創業時は時代環境やビジネスチャンスを捉えていたが、世の中・技術・需要の変化に対し、同じ経営者が手なりで経営し続けると時代とずれていく。だからこそ承継=経営/オーナーシップ交代が大きなチャンス」と意味づける。
章タイトル8:船井総研ファスの支援プロセス
主張: 三田氏は支援フローを次のように説明。
- 診断:財産面・後継者体制に加え、業界構造・将来性・自社ビジネスモデルの優位性など経営面・事業面まで診断。
- パターン選択:親族内/従業員(MBO)/第三者(M&A)のどれが企業成長に適するか検討。
- 家族会議:選定スキームをファシリテートしながら家族間ですり合わせ。
- 計画策定:譲渡形式・タイミングを最終計画化。
- 実行:策定後5年(動画内発言)かけて伴走しながら実行。
「書面作成は最後の最後のステップで、その前段の感情面・関係性面の支援が本質」との三田氏の主張。
重要な固有名詞・データ
| 項目 | 内容 | 文脈 |
|---|---|---|
| 後継者不在による事業継続困難件数 | 2023年度586件、2024年度507件 | 帝国データバンク(動画内で言及) |
| 船井総研ファス | 船井総研ホールディングスと辻・本郷グローバル税理士法人の合弁会社 | 三田氏所属。事業承継・M&A・MBO・デューデリ等を支援 |
| 船井総合研究所 | 中堅中小企業向け経営コンサル55年 | 船井総研グループの母体 |
| 辻・本郷グローバル税理士法人 | 税理士法人 | 船井総研HDとの合弁先(動画内発言) |
| ハウジング重兵衛(菅幸生・6代目) | 千葉県成田市・127年継続のリフォーム業 | 親族内承継成功事例。売上 約20億円弱 → 50億円規模 |
| 夢見る株式会社(重見彰則社長) | プログラミング教室「ロボ団」を全国展開 | エディオングループ入りしたM&A成功事例 |
| エディオン | 家電量販店グループ | 夢見る株式会社の親会社 |
| アイゼンハワー | 米国大統領 | 「重要なことは緊急ではない、緊急なことは決して重要ではない」を楠木氏が引用 |
| サステナグローススコア | 売上成長率+営業利益率の合計(40%超で合格) | 船井総研グループ独自指標 |
| 東京商工リサーチ | 企業データ | 「創業年数とサステナグローススコアが反比例」分析の元データ |
| 事業承継マニュアル3点セット | 動画概要欄から無料DL可能 | 三田氏が最後に紹介 |
| 船井オンライン | 船井総研のYouTubeチャンネル | 三田氏が事例紹介の参照先として案内 |
アクションインサイト
- 楠木氏の「経営と所有を完全一致させているとオプションが減り制約になる」という議論を踏まえれば、自社/クライアント企業の現在の所有構造が、将来の人材選択肢をどれだけ狭めているかを点検する余地がある(特にオーナー一族で固定化されている企業)。
- 三田氏の「準備が9割」「事業承継は感情で進む」議論を踏まえれば、承継検討は「税スキーム設計」よりはるか手前の「家族内・幹部内の対話設計」「後継候補の早期巻き込み」を起点に置く設計に組み直す余地がある。
- 楠木氏の「ピンチこそが本物のチャンス」「経営者交代は滅多にない非連続変化の機会」という見立てを踏まえれば、既存事業のコア人事交代(M&A・社長交代・大型異動)を、単なる引継ぎではなく事業ポートフォリオ再設計の起点として扱うことを検討する余地がある。
- 三田氏の「サステナグロースカンパニー(成長率+利益率の合計40%超)」という指標の議論を踏まえれば、自社/クライアントの「承継後成功」を売上維持や承継完了で測らず、定量基準で再定義する余地がある。
- 楠木氏の「創業年数が長いほどサステナグローススコアが下がる」分析の議論を踏まえれば、創業から年月が経つほど「手なりの経営」を疑い、経営者・株主の意図的な入れ替えを意思決定の選択肢に置く余地がある。
引用したくなる発言
経営者っていうのは最も希少で最も不足しがちな経営資源だ(楠木氏)
重要なことは緊急ではない、緊急なことは決して重要ではない(楠木氏/アイゼンハワー引用)
ピンチがチャンスなんだと思うんですよ。本当のチャンスってピンチの時ぐらいしかない(楠木氏)
事業承継は第二の創業だ(三田氏)
事業承継は論理的に物事が進むことはほとんどなく、ほぼ感情で進んでいくもの(三田氏)
承継の成功定義って何ですかと言われると、サステナグロースカンパニーをどんだけ作れるかということ(三田氏)
関連トピック
- 親族内承継/MBO/M&Aの3類型と、それぞれの「経営と所有の分離パターン」
- 株式承継時の贈与・相続税負担と早期対策の必要性
- 「経営者の教育」を生まれた時から始める長期育成の考え方
- 創業年数と業績成長率の反比例(東京商工リサーチデータ×船井総研分析)
- 急成長カンパニー/普通カンパニー/業界1番カンパニー/消滅カンパニーとサステナグロースカンパニーの類型対比
- 船井総研グループのサステナグローススコア(売上成長率+営業利益率=40%超で合格)
- 船井オンライン(船井総研YouTubeチャンネル)
- 事業承継マニュアル3点セット(船井総研提供・無料DL)
- 関連企業:船井総合研究所、辻・本郷グローバル税理士法人、ハウジング重兵衛、夢見る株式会社、エディオン