【人口減・黒字休廃業「8割経済」の成長戦略】黒字廃業を救う「共創型M&A」とは?/地方企業が世界ブランドに化ける/11戦全勝 MOON-XのM&A戦略/中小企業の勝ち筋「連合企業」のつくり方
【人口減・黒字休廃業「8割経済」の成長戦略】黒字廃業を救う「共創型M&A」とは?/地方企業が世界ブランドに化ける/11戦全勝 MOON-XのM&A戦略/中小企業の勝ち筋「連合企業」のつくり方
30秒サマリー
日本M&Aセンター竹内氏とMOON-X長谷川氏が、中小企業の事業承継問題と「8割経済」(生産年齢人口が20年で7300万人→5800万人へ約2割減)への打ち手としてM&Aを論じた対談。竹内氏は規模の経済による生産性向上を、長谷川氏は「うまくいっている会社のさらなる飛躍」を狙う共創型M&A(11件全件好調)を提唱。両氏とも、ECとM&Aの掛け合わせによって地方企業のブランドを世界へ展開する道筋を示した。長谷川氏は「日本人は0→1は苦手だが1→10は得意。M&Aは島国日本のためにある手段だ」との見立てを示した。
登壇者
- 竹内直樹(日本M&Aセンター 社長): 累計成約件数1万件超を記録した日本M&Aセンターの社長。本人は44社をストレートで担当、関与含めれば100社超。著書『成長戦略型M&Aの新常識』を出版。事業承継問題と中堅中小企業の成長戦略を両軸で語る立場。
- 長谷川晋(MOON-X 代表): 京都大学卒業後、東京海上火災→P&G→楽天上級執行役員→Facebook Japan代表取締役を経て、6年前にMOON-Xを共同創業。3社全てがM&Aで急成長したという原体験から、MOON-XのコアにM&Aを据える。「ブランドと人の発射台」をミッションに掲げ、共創型M&Aを11件実行・好調と発信。
キーポイント
- 事業承継の崖: 竹内氏によれば、国内336万事業者のうち約175万(52.1%)が後継者不在。直近1年間の休廃業6万9000件は前年より1万件増、その半分が黒字企業。
- 「8割経済」の到来: 竹内氏の見立てでは、生産年齢人口(15〜64歳)は7300万人→20年後5800万人へ約2割減。オーガニック成長だけでは売上100億→80億になりかねず、規模の経済を取りに行く必要があるとの主張。
- 共創型M&Aの定義: 長谷川氏は「うまくいっている会社にしか声をかけない」と表明。困窮企業のターンアラウンドではなく、強みをリスペクトしてMOON-Xの強みを掛け合わせ、ブランドをスケールさせるモデルだと位置付ける。
- MOON-Xが提供する3点セット: 長谷川氏の整理では、中小企業がスケールで詰まる壁は「人材・キャッシュ・ノウハウ」の3つ。専門人材プール/資金調達/型化されたノウハウを供給するのが価値だと主張。
- PMIは「-30日」から始まる: 竹内氏は「成約日が1日目」ではなく「契約前マイナス30日くらいからM&Aの成功は始まっている」との見立てを示し、トップ面談で文化整合を確認する重要性を強調。
- 11戦全勝の実績: 長谷川氏によれば、MOON-Xは現在11件のM&Aを実行し、いずれも好調。竹内氏は「世界平均の成功率は約30%」と相対化したうえで「素晴らしい数字」と評価。
- 連合企業の作り方は「カテゴリー or 地域」: 竹内氏の見立てでは、勝てる連合企業のパターンは①業種カテゴリー特化(MOON-X=EC、GENDA=アミューズメント、技術承継=ものづくり)、②地域コングロマリット(例: 富山県内のバリューチェーン展開)の2軸。
- 「M&Aは島国日本のためにある」(長谷川氏の主張): 長谷川氏は「日本人は0→1は苦手、1→10は得意」「M&Aは0→1ではなく1→10にする手段」と論じ、創業者が立ち上げた「マイカンパニー」を次世代が「アワーカンパニー」として仕上げていく社会観を提示。
詳細展開
章1: 中小企業に迫る2つの経営課題(事業承継と8割経済)
竹内氏は冒頭、中小企業を取り巻く構造課題を「事業承継」と「成長戦略(8割経済)」の2つに整理した。
主張(竹内氏): 事業承継問題は深刻化している。国内約336万事業者のうち約175万(52.1%)が後継者不在。直近1年間の休廃業件数は6万9000件で前年より1万件増、その半分が黒字企業。黒字でも畳む理由は「人様に譲渡するくらいなら、ひっそり畳もう」という心情的傾向と、息子世代の都市部での生活基盤・職業選択の自由が大きいとの分析。
もう1つの課題は「8割経済」。竹内氏によれば、生産年齢人口(15〜64歳)は現在約7300万人、20年後には5800万人になる見通しで、約8掛けの規模になる。「食べる人が2割減る」ため、売上100億の企業がオーガニックに頑張っても20年後は80億になりかねない、というのが竹内氏の見立て。
根拠・データ:
- 国内事業者数: 約336万
- 後継者不在率: 52.1%(約175万事業者)
- 直近1年の休廃業件数: 6万9000件(前年比+1万件、うち半数が黒字)
- 生産年齢人口: 7300万人 → 5800万人(20年後)
- 日本M&Aセンター累計成約件数: 1万件超(昨年3月時点)
- 竹内氏個人の担当実績: ストレート44社、関与含めれば100社超
- 公表ベースのM&A件数: 年間4700件(実態は3〜5倍が水面下にあると竹内氏は推定)
関連動向: 中小企業庁が「100億宣言」制度を運用しており、100億円規模を目指すと表明した企業に最大5億円の補助金。竹内氏は「国がここまで舵を切るのは大きなインパクト」と評価。
章2: 地方企業×ECが生む世界ブランドの可能性
竹内氏と長谷川氏は3年前に資本提携し、地方の優良メーカーをECで磨き上げる協業を進めている。
主張(竹内氏): 地方には精密加工・乾燥技術など世界基準の技術を持つメーカーが多い一方、世間に出していく力が弱い。M&AとECの掛け合わせは有効な打ち手だとの立場。
主張(長谷川氏): ECは「人類革命」と位置付け、その背景にある2つのトレンドを挙げる。
- (1) モバイルがインフラ化: 世界で携帯電話を持つ人は50億人以上で、歯ブラシ保有者より多いと言われる。消費者の生活のど真ん中がスマホになっている以上、ブランドの発見・選択・購入・サポートのあり方もそちらに寄っていくのが必然との見立て。
- (2) 地理的制約の撤廃: ECは地方企業でも世界に売れる。例として子会社「Kerata(ケラッタ)」を挙げ、「会社は長野県塩尻市にあるが、日本中、さらに韓国・中国・米国でも売っている」と説明。地方で「派手ではないが意味のあるワクワクする雇用」を作れることに価値があると論じる。
長谷川氏の体験的補足: 自身は広島県三原市出身で、幼少期は服を買うのに電車で2時間かけて広島市まで出ていた。今の地元の高校生はワンクリックで世界からいい服を買っている。この変化が島国日本の成長手段になり得るとの主張。
章3: 共創型M&A — MOON-Xの定義と「3つの提供価値」
主張(長谷川氏): 一昔前のM&Aは「大企業の飲み込み」「ターンアラウンド(再生型)」のイメージだったが、MOON-Xの共創型M&Aはそれとは色が違う、と整理。
定義: 「うまくいっている会社さん(製品・社員・文化・仕組みが優れている)」だけに声をかけ、その強みをリスペクトしながらMOON-Xの強みを掛け合わせて「ワンチームでブランドをより大きく飛躍させる」モデル。
MOON-Xが提供する3つの価値(長谷川氏の整理):
- 人材: 一定フェーズを超えるには専門人材が必要だが、中小企業単独で採用するのは難しい。MOON-Xは事業会社で専門スキルを身につけたメンバーが揃っており、プロの型を持ち込む。
- キャッシュ: メーカービジネスは工場への支払いが先、入金が翌月末などキャッシュヘビー。多くのオーナーは個人保証で銀行借入していて成長に蓋がかかる。MOON-Xが資金調達も巻き取り、財務基盤を提供。
- ノウハウ: 創業者は「戦闘力の高いストリートファイター」が多いが、スケールさせるにはマーケティング・オフライン販売・組織づくりそれぞれに「型」が必要。MOON-Xはその型を提供し、創業者の戦闘力と掛け合わせて最強化する、というのが長谷川氏の主張。
竹内氏の同調: 「シンプルに『商売ができる会社』を作ることがM&Aのキーワード。長谷川氏が挙げた3点が、それに足りない要素そのもの。」
章4: 成功事例 — Kerata(ケラッタ)と necoichi(猫一)
Kerata(ベビー・マタニティD2C、長野県塩尻市):
- 元々ベビー・マタニティ用品のD2Cでトップブランドの1つ。スリーパー・おむつシート・抱っこ用品などを展開。
- MOON-Xと一緒になってから、楽天での売上が2倍以上に拡大。
- 雇用増に伴い、塩尻に移住してKerataで働き始めた人が長谷川氏が把握しているだけで2名いる。
- 既存社員からマネージャーが生まれ、初めて部下を持つ経験で人としても成長していく。「ブランドと人の発射台」のミッションに合致するとの長谷川氏の見立て。
necoichi(猫用品、リーディングブランド):
- 元々から猫用品の確固たるリーディングブランドだったが、MOON-Xと一緒になってグローバル展開を加速。
- 米国中心のグローバルチームは2名 → 6名に増強。米国マーケットに即した商品開発が可能になった。
- 「猫は世界中にいる。せっかく一緒になったのだからグローバルへ」という発想で、元々necoichiがやりたかったことを近づけているとの長谷川氏の説明。
竹内氏の評価: 一般にM&Aの世界平均成功率は約30%と言われる中で、MOON-Xの11件全件好調は「ブランドコンセプトがしっかりしている証左」との見立て。
章5: 成功するM&Aは「-30日」から始まる — トップ面談とPMI
竹内氏は「成約日を1日目とする発想を変えるべき」と主張。
主張(竹内氏): 重要性は高いが緊急性は低いテーマがM&A。無理に売る必要も買う必要もないからこそ、目標を明確に定めずに進めると失敗する。トップ面談で文化整合を確認することが、M&Aの成功は実質「-30日」から始まっているという感覚に直結する。
主張(長谷川氏: 押し売りしない): 長谷川氏は「M&Aの押し売り、成長の押し売りはうまくいかない。迷ったらしない、と決めている」と表明。社員のキャリアと人生を背負うからこそ、本気で目線が合わない限り進めない、というのが長谷川氏のスタンス。実際、身を引いた事例の方が圧倒的に多いと述べる。
目線合わせの内容(長谷川氏): トップ面談で「人としての相性/ファウンダー同士のストーリー/どこを目指すのか・いつまでに・どうやって・なぜ」を徹底的に擦り合わせる。会食も差しで何度も行うウェットな進め方。
PMI(統合後)の進め方(長谷川氏):
- 一緒になった社員は「自分の意思で入社したわけではない」という現実認識を持つ。
- 後日、事業会社の現場へ行き、自己紹介・会社紹介・「こうやって一緒にやっていきたい」を直接伝えてQ&Aを実施。
- その上で12ヶ月以内に全員と1対1で面談。
- よく聞かれる5つほどの「気になるけど聞きにくい質問」には、向こうから質問させる前に答えておく。
- 最初の100日は週次で全員参加の場を持ち、MOON-Xの取締役3名も入って統合の課題をテーブルに載せて即決していく。
- 竹内氏の補足: 「経営者の思いは、まず相手社長へ、次にPMIで全社員へ伝わる流れが成功の鍵」。
章6: 連合企業の作り方と「日本のためのM&A」観
主張(竹内氏: 連合企業の2軸): 勝てる連合企業のパターンは2つあるとの見立て。
- (1) 業種カテゴリー特化: MOON-X = EC、GENDA = エンタメ/アミューズメント、技術承継機構 = ものづくり、というように特定カテゴリーで連続買収を仕掛けると、業界の癖や知名度が追い風になる。
- (2) 地域コングロマリット: 例えば富山県内でバリューチェーンに即して展開する。地域の応援団を作りに行く発想で、企業経営にもM&Aにも整合的だと論じる。
主張(長谷川氏: 製品と社員が原動力): 「成長するまでがM&A」という考えに基づき、一緒になることが目的ではなく成長していくことが目的。逆算で「勝てる可能性のある製品ブランドがあるか」「社員が一緒に熱意を持って迎えるか」の2点を抑えれば成功確率は上がる、という見立て。
主張(長谷川氏: M&Aは島国日本のためにある手段): 長谷川氏は「日本人は0→1は苦手だが、1→10は得意な民族」と論じ、「M&Aは0→1ではなく1→10にする手段」と位置付ける。創業者が「マイカンパニー」として作ったものを、次世代が「アワーカンパニー」として仕上げていく企業が一社でも増えれば、日本社会はガラッと変わるとの見立てを提示。
主張(長谷川氏: 残された課題): オーナー層は前向きになっているが、従業員やその家族には「M&A=身売り/潰れそう」というイメージがまだ残る。成功事例を業界として発信し続けることで世の中の認識を変えていく必要がある、と長谷川氏は指摘。
重要な固有名詞・データ
| 項目 | 内容 | 文脈 |
|---|---|---|
| 日本M&Aセンター | 累計成約件数1万件超(昨年3月時点) | 竹内氏の自社紹介 |
| 竹内直樹 担当実績 | ストレート44社、関与含め100社超 | 自己紹介 |
| 国内事業者数 | 約336万 | 事業承継問題の母数 |
| 後継者不在率 | 52.1%(約175万事業者) | 事業承継問題 |
| 直近1年の休廃業 | 6万9000件、前年比+1万、半数が黒字 | 「黒字廃業」の根拠 |
| 生産年齢人口 | 7300万人 → 20年後5800万人 | 「8割経済」の根拠 |
| M&A年間件数(公表ベース) | 4700件、実態は3〜5倍と推定 | 竹内氏の見立て |
| 中小企業庁「100億宣言」 | 100億円規模を目指す表明企業に最大5億円補助 | 国の政策動向 |
| 日本M&Aセンター扱い案件構成 | 8割が売上1〜10億未満 | 中小企業中心の実態 |
| 世界のM&A成功率 | 約30%(竹内氏言及、出典は動画内で言及なし) | MOON-X 11戦全勝の相対化 |
| MOON-X | 6年前に長谷川氏らが共同創業、ミッション「ブランドと人の発射台」 | 共創型M&Aの実践企業 |
| MOON-X実行件数 | 11件、いずれも好調(長谷川氏発言時点) | 共創型M&Aの実績 |
| 長谷川晋 経歴 | 京都大学→東京海上火災→P&G→楽天上級執行役員→Facebook Japan代表 | 自己紹介 |
| Kerata(ケラッタ) | ベビー・マタニティD2C、長野県塩尻市拠点 | MOON-X子会社事例 |
| Kerata楽天売上 | 統合後2倍以上に拡大 | 成功事例の数値 |
| Kerata塩尻移住者 | 長谷川氏把握分で2名 | 地方雇用の事例 |
| necoichi(猫一) | 猫用品リーディングブランド、米国中心にグローバル展開 | MOON-X子会社事例 |
| necoichi 米国チーム | 2名 → 6名に増強 | グローバル加速の数値 |
| 世界の携帯電話保有者 | 50億人以上(歯ブラシより多い) | ECトレンドの根拠 |
| GENDA | エンタメ/アミューズメントカテゴリーで連続買収・上場 | 連合企業の事例 |
| 技術承継機構 | ものづくり・メーカーカテゴリーで連続買収・上場 | 連合企業の事例 |
| 100日間の集中PMI | MOON-X取締役3名も参加し週次で統合課題を即決 | PMIの方法論 |
アクションインサイト
- 長谷川氏の「人材・キャッシュ・ノウハウの3壁」の整理を踏まえれば、自社が連携・買収・JV検討する相手を見るとき、「この3壁のうちどれを自社が埋められるか/相手が埋めてくれるか」をチェックリスト化する余地がある。
- 竹内氏の「-30日からM&Aは始まっている」「年配経営者は成長意義を見出しにくい」という指摘を踏まえると、社内外の事業承継候補に対して「数字(売上目標)ではなく顧客貢献の延長」の言葉で目線合わせを準備する余地がある。
- 長谷川氏の「うまくいっている会社にしか声をかけない/迷ったらしない」のスタンスを踏まえれば、自社のM&A/資本提携検討で「ターンアラウンド型」と「共創型」を意図して峻別し、社内ガバナンスを使い分ける論点になりうる。
- 竹内氏の「業種カテゴリー or 地域」の連合モデルを踏まえると、自社事業の周辺で連続買収を仕掛けるときの軸選定(業種特化か、地域特化か)を、応援団を作りやすい側で設計し直す余地がある。
- 長谷川氏のEC × M&Aによる地方ブランドの世界展開モデルを踏まえれば、地方の良質メーカー/クラフト系ブランドへの出資・協業を検討する際、「ECチャネルの提供」を価値訴求の中心に置く設計が成立しやすい。
- PMIで「最初の100日は週次・全員参加・取締役同席」というMOON-X流の進め方は、自社のM&A/組織統合プロジェクトでの定着支援設計のベンチマークになりうる。
引用したくなる発言
一緒になることが目的ではなくて、そこから一緒に成長していく。(長谷川氏)
M&Aを成約した日からが1日目と言われますが、実は0日、マイナス30ぐらいから実はM&Aの成功は始まっている。(竹内氏)
日本人は0から1を作り出すのが苦手な民族だと思っているんです。ただ一方で1から10を作るのはめちゃくちゃ得意。M&Aというのは0→1ではなくて1を10にするもの。(長谷川氏)
M&Aの押し売り、成長の押し売りはうまくいかない。迷ったらしないと決めています。(長谷川氏)
M&Aというものは世界を変えていく、日本のためにあるんだ。(長谷川氏)
関連トピック
- 中小企業庁「100億宣言」(最大5億円補助、中堅中小の生産性革命)
- GENDA(エンタメ・アミューズメント領域での連続M&A/上場企業の事例)
- 技術承継機構(ものづくり・メーカー領域での連続M&A/上場企業の事例)
- D2C/EC領域でのブランド統合戦略(MOON-Xモデル)
- 事業承継問題と地域経済(地方コングロマリット構想)
- PMI(Post-Merger Integration、統合後マネジメント)の方法論
- 竹内直樹『成長戦略型M&Aの新常識』(書籍、動画内で紹介)
- 「8割経済」(生産年齢人口減少を前提とした経営戦略の枠組み)