【AI時代の新しいキャリア像】キャリアピボットの実例/グローバルで事業変革の後援に/挑戦者ばかりが集まる
【AI時代の新しいキャリア像】キャリアピボットの実例/グローバルで事業変革の後援に/挑戦者ばかりが集まる
30秒サマリー
製造業AIデータプラットフォームを展開するキャディの2人と、企業戦略の専門家・楠木建氏が、企業のピボットとキャリアのピボットの2軸で議論した回。キャディ側は「同社の2024年の事業統合は単なるピボットではなく、図面解析等の元々持っていたテクノロジー資産の延長上にある連続的な転換」との見立てを示した。楠木氏は「軸足のないピボットは無価値で、イノベーションの本質は『非連続の中の連続/連続の中の非連続』にある」と主張し、AI時代の労働市場では人的資本(働く仲間・志望動機)こそが企業価値を映す指標だと論じた。
登壇者
- 佐々木孝太(キャディ エンタープライズセールス マネージャー): 2025年3月入社、キャディが3社目。コンサル → SaaS HRスタートアップ(スマートHR)→ キャディというキャリア。「挑戦・時代の先端・インパクト」を軸に転職を選んできた立場。
- 河野氏(キャディ ソリューション本部 担当): 2022年5月入社。慶應 → 航空宇宙 → エネルギー → IBMでスマートシティ/AI領域のシニアマネージャー → キャディ。「数年おきに目標を立てて流れの中で領域を移してきた」自己認識を持つ。
- 楠木建(一橋ビジネススクール 特任教授): 企業戦略の論客。本動画では「ピボット」という言葉そのものに批判的見解を示し、軸足の重要性とAI時代の労働市場・人的資本の見方を提示する立場。
- 野島(PIVOT ホスト): テーマ進行役。
キーポイント
- キャディの事業転換は「ピボット」ではなく連続的進化: 河野氏は、現在の製造業AIデータプラットフォームは元々調達プラットフォーム時代に社内で作っていた図面解析・形状認識・品質リスク検知などの数十のテクノロジーを、お客様の要望でソフトウェア化した結果と説明。「軸足のないピボット」ではないとの立場を明示。
- 楠木氏のピボット観: 「ピボットと言っているやつにピリッとしたやつがいない」「ピボットする前に軸を決めろ」と主張。軸足があるからピボットできるという立場で、キャディは「嫌なピボットではない」との見立て。
- 製造業の構造課題は「3つの壁」: 河野氏の整理では、組織の壁・時間の壁・国の壁が製造業のグローバルバリューチェーンを分断している。M&A後の国をまたいだノウハウ非連携、ベテランの暗黙知の属人化などがその具体例。
- 「製造業は部分最適化の集積」という構造認識: 楠木氏は「部分最適だからこそ競争力が生まれてきた側面もある」と評価しつつ、AIで全体最適に持っていける可能性を指摘。
- AIは「これまでスキルを持たなかった人ほど恩恵を受ける」テクノロジー: 楠木氏の主張。馬車・自動車のアナロジーで、技術は人間の能力の外部化であり、「足が遅い人ほどありがたい」のと同じ構造でAIも基本的に仕事を楽にするものだとの見方。
- イノベーションの本質は「非連続の中の連続/連続の中の非連続」: 楠木氏のキャリア論。完全な非連続は「うちにはいらない」となるし、完全な連続は前進しない。両者の重ね合わせに価値があるとの立場。
- AI時代の企業価値はIRより人的資本で測れ: 楠木氏は「日本でようやく労働市場で本当に選ばれなきゃいけない時代が来た。IR向け資本市場情報よりも、どんな人が何人入ってきてどんな人が抜けているかを見たほうが企業の将来性がわかる」との見立てを示した。
- キャディは2025年時点で社員600人超、転職者多数流入: ミッション(製造業×AIで産業全体を変革)と「当たり前基準が高いぶっ飛んだ仲間」が求心力との佐々木氏の説明。
詳細展開
章1: キャディの事業転換 — 「ピボット」か「連続的進化」か
キャディは元々、製造業の部品調達プラットフォーム(顧客から図面を預かり、最適サプライヤーへの発注・検査・品質保証・納品検査まで担う「製造業のAmazon」)として展開していた。2024年に事業を統合し、製造業AIデータプラットフォームへ転換した。
主張: 河野氏は「これは軸足のないピボットではなく、社内で図面解析・形状認識・品質リスク検知のために作っていた数十のテクノロジーを、顧客要望に応じてソフトウェア化した連続的な進化」との立場。元々の調達業務は製造業バリューチェーンの18%程度の課題解決だったが、より広く物づくり産業のポテンシャルを解放できると見て事業範囲を広げた、と説明。
根拠・データ:
- 顧客から預かった図面の手書き・多様なフォーマットを処理するため、社内で数十のAIテクノロジーを内製していた
- 設計段階から品質保証・規制クリアまでを支援できる構造(顧客が設計時にデータを入れると改善示唆が返る)
- 製造業のGDP寄与は日本全体の約2割(野島氏言及)
反論・異論: 楠木氏は「ピボット」という言葉そのものに違和感を表明。「軸足がないやつがピボットすると言っている」「ピボットする前に軸を決めろ」と主張。ただしキャディに対しては「お客さんの側もこれまでの軸足をフルに使ってピボットできる、嫌なピボットではない」と評価。
章2: 製造業の構造課題 — 3つの壁と「部分最適化の集積」
主張: 河野氏は製造業の課題を「組織の壁・時間の壁・国の壁」の3つに整理。
- 組織の壁: 部品の曲げや穴の交差を変えると不具合が出る等のパターン知識が、データ化されず人に紐づくため、同じミスが繰り返される
- 時間の壁: ベテランの暗黙知が引退と共に失われる
- 国の壁: M&A・事業統合で国をまたぐと、片方の国でできていることが他方でできない
楠木氏はこれを「製造業は部分最適化の集積体」と表現し、構造的な必然性を指摘。「組織を超えて業界全体で簡単に共有できるものなら価値がない。そこしか知らないこと・できないことが積み重なって製造業の競争力を生んでいる」「ほっとくとどんどん部分最適的になる、いい意味でも悪い意味でも」との見立て。
根拠・データ:
- 海外では人材流動性が高く、ベテランが引退でなく転職で抜けるため属人ノウハウがさらに残らない
- 自動車メーカーの日米拠点間でデータ・ノウハウ連携がされていないケースが現実にある(河野氏)
章3: AI時代のキャリア — お二人の選択軸
主張(河野氏): 「キャリアを描いてきたわけではなく、流れの中で映ってきた」との自己認識。慶應 → 航空宇宙(宇宙関連志望)→ 「あと50年来ない」と判断してエネルギーへ → 環境都市・スマートシティ志向でIBMへ(コンサル志望ではなくスマートシティをやれる場所として選択)→ コグニティブ/AI → コロナ禍を機にキャディへ。
主張(佐々木氏): 「挑戦・時代の先端・インパクト」を軸に選んできた。LA留学 → コンサル → スマートHR(働き方改革・人的資本経営の黎明期)→ キャディ(製造業×AI、グローバル課題、自身のSaaS経験が活かせる連続性)。
主張(楠木氏): 「軸足を見つけている人と、まだそこに至っていない人の違いが大きい」。自身を「前職は歌手」と表現しつつ、「人前に出て、お客さんが喜べばよく、ブーと言われると否定される」という本質は変わっていない、コンテンツが変わっているだけだとの自己認識。「変わっているけど変わっていない、変わっていないけど変わっている」がいい状態だと示唆。
反論・異論: 「AIスキルを転職市場で求められる感覚があるか」という野島氏の問いに対し、佐々木氏は「カジュアル面談でAI時代に自分のキャリアをどう上げるか意識しているという人は増えた」と回答。一方、楠木氏は「あらゆる技術は人間の能力の外部化。これまでスキルを持たなかった人ほど恩恵を受けるのが基本」「AIに何ができるかより、何に使ってどんな価値を生み出すかが重要」と立場を示し、技術ドリブンより目的ドリブンの選び方を主張。
章4: グローバル産業変革という機会 — なぜ製造業×AIが面白いか
主張: 楠木氏は「日本の製造業は最も競争力を持つ業界。サービス業を含めて『日本は生産性が低い』と言われるが、製造業は異常に優れた領域」との見立て。Google・Amazonなどグローバル企業も、海外売上比率や従業員構成で見れば、村田製作所・日本電産・ブリヂストンなど日本の製造業の方がよりグローバルだ、との指摘。
河野氏は「製造業の図面は非言語でグローバル共通。課題もグローバル規模」と説明。キャディは日本・アメリカ・タイ・ベトナム拠点で展開。日本の自動車メーカーが米国にも拠点を持つが、データ・ノウハウ連携が国をまたいで行われていない現実があり、キャディのプラットフォームに統合することでAIアプリケーションとして活用できる、との立場。
根拠・データ:
- 日本の製造業GDPはここ20年ほぼ横ばい(河野氏)
- ドイツの製造業GDPは20年で約2倍、中国は8〜9倍(河野氏)→ 日本にも大きなポテンシャル余地があるとの見立て
- 製造業内でも「図面から人が情報を読み取る」「過去の類似製品を大量の図面から人が探す」「見つからないから書き直す」などのアナログ作業が大量に残存
- AI活用で業務時間が「半分」「1/5」になる領域がある(河野氏)
反論・異論: 楠木氏は「日本は生産性が低い」という一般論に対して「製造業に関しては全くそうではない」と反論。生産性議論はサービス業など他業種を含めた平均像であり、製造業単独ではむしろ強みだとの立場。
章5: AI時代の労働市場と「選ばれる企業」の条件
主張: 楠木氏は「日本でようやく労働市場で本当に選ばれなきゃいけない時代が来た」との見立て。戦後復興〜高度成長期の終身雇用は経営コストを下げる合理性があったが、それは特殊な状況下の話。AIの登場が直接の引き金ではなく、社会全体の流動性向上の波の中でAIもドライバーの一つとして自然に進んでいるとの位置づけ。
「IR向け資本市場情報を見るより、どんな人が何人くらい、どんなことを考えてその会社に入ってきているか、どんな人がバンバン抜けているかを見たほうが、企業の将来性・価値がはっきり分かる」と主張。
根拠・データ:
- キャディは2025年時点で社員600人超、転職者が多数流入
- 佐々木氏の説明では、求心力は「グローバル共通課題への挑戦というミッションの大きさ」「当たり前基準の高い、ぶっ飛んだ仲間」
- 河野氏は代表加藤氏の動画を見て「変な人がいるな」と興味を持ち、3ヶ月程度で転職決断したエピソードを共有
- ソリューション本部にはコンサル・ITコンサル出身(複雑要件整理が得意)、事業開発経験者(ソリューション設計が得意)、データサイエンティスト・AIエンジニア、製造業ドメイン精通者など多様な人材が集積
章6: ソリューション本部とエンタープライズセールスの役割分担
主張: 河野氏は、AI・データプラットフォームを使っても「変革は人と組織が動かなければ進まない」との立場。ロジカルにAI導入を提示するだけでは組織は動かない、という現場認識。
役割分担:
- ソリューション本部(河野氏): 顧客の複雑な業務(設計・調達など)に対し、データ活用で何がどう良くなるかを設計し、アプリケーションを提供。顧客に「これが絶対欲しい」と言わせる役割。
- フィールドセールス/エンタープライズセールス(佐々木氏): 自動車・重工業・電気メーカー等を業界カットで担当。経営層との対話、変革の後押し、組織を動かすファシリテーション。「もっと仲間が必要、エンタープライズセールスが全く足りていない」(佐々木氏)。
重要な固有名詞・データ
| 項目 | 内容 | 文脈 |
|---|---|---|
| キャディ | 製造業AIデータプラットフォーム企業 | 番組のテーマ企業。2024年に事業統合 |
| 加藤(代表) | キャディ代表 | 河野氏が転職を決めた直接のきっかけは加藤氏の動画 |
| キャディ社員数 | 600人超 | 2025年時点、転職者多数流入 |
| キャディ拠点 | 日本・アメリカ・タイ・ベトナム | 製造業のグローバル展開を支援 |
| 製造業GDP比率(日本) | 約2割 | 野島氏言及 |
| 日本製造業GDP推移 | 約20年ほぼ横ばい | 河野氏。輸出も輸入も増えているが結果横ばい |
| ドイツ製造業GDP推移 | 約20年で2倍 | 河野氏 |
| 中国製造業GDP推移 | 約20年で8〜9倍 | 河野氏 |
| 佐々木孝太 | 2025年3月キャディ入社、3社目 | コンサル → スマートHR → キャディ |
| 河野氏 | 2022年5月キャディ入社 | 慶應 → IBM(シニアマネージャー)→ キャディ |
| 楠木建 | 一橋ビジネススクール 特任教授 | 企業戦略論。本動画ではピボット論・労働市場論を展開 |
| スマートHR | HR SaaS企業 | 佐々木氏の前々職、入社時約50名規模 |
| IBM | テクノロジー大手 | 河野氏の前職。スマートシティ → コグニティブ/AIへ |
| キャディの源流業務 | 製造業部品の中間プラットフォーム(調達・検査・品質保証・納品検査) | 「製造業のAmazon」と表現 |
| バリューチェーン課題範囲 | 旧モデルは18%程度を担当 | 河野氏。全体ポテンシャル解放のために事業統合 |
| 業務効率化のインパクト | 「半分」「1/5」 | 河野氏。図面検索・類似製品参照などで実現する規模感 |
| 3つの壁 | 組織の壁・時間の壁・国の壁 | 河野氏が整理した製造業の構造課題 |
| 楠木氏の比喩 | 「足が遅い人ほど車はありがたい」 | AIは「これまでスキルを持たなかった人ほど恩恵を受ける」テクノロジーだという主張 |
| 楠木氏の自己認識 | 「前職は歌手」 | キャリアの連続性を語る文脈での比喩的表現 |
アクションインサイト
- 楠木氏の「ピボット前に軸足を決めろ」議論を踏まえれば、自社の事業転換やキャリア転換の物語を整理する際、「何が連続していて、何が非連続なのか」を意識的に言語化する余地がある。連続性ゼロのピボットストーリーは、社内外への説明力を持ちにくい可能性がある。
- キャディが「源流の自社内製テクノロジーをソフトウェア化した」プロセスは、AI時代の事業転換のひな型として参照価値がある。河野氏の議論を踏まえれば、自社の業務プロセスの中で社内向けに作った仕組みのうち、外販可能性のあるものを棚卸しする観点が考えられる。
- 「3つの壁(組織・時間・国)」フレームは製造業以外にも応用余地がある。クリエイティブ業界・サービス業でも、組織横断のノウハウ非連携、ベテラン引退による暗黙知喪失、海外拠点とのデータ非連携は同型の課題として点検できる。
- 楠木氏の労働市場観を踏まえれば、自社の採用ブランディング・人的資本開示において、「誰がどんな動機で入ってきて、誰がどんな理由で抜けているか」を可視化する余地がある。財務指標だけでなく、人材の流入・流出ストーリーが企業価値の有力な指標になり得るという立場。
- AIスキル偏重の採用・キャリア戦略に対する楠木氏の慎重論を踏まえれば、「AIで何ができるか」より「何に使ってどんな価値を生むか」を軸に職務設計・人材要件を考える観点が示される。技術スキル単体での要件定義への過剰傾斜を点検する余地がある。
- キャディのソリューション本部 × エンタープライズセールスの役割分担構造は、技術主導のB2B SaaS組織の設計参考例として整理できる。プロダクト価値の提示と組織変革推進を別ロールで担う設計は、自社の顧客成功体制を点検する補助線になる。
引用したくなる発言
ピボットっていう言葉に罪はないんですが、ピボットピっと言ってるやつにあんまりピリッとしたやつがいないっていう。(楠木)
ピボットする前に軸決めろっていう風に僕は、ちょっとこう60代なんで、すぐそういうこと言いたがる年頃。(楠木)
イノベーションの本質っていうのは非連続の中の連続、もしくは連続の中の非連続というところに価値がある。(楠木)
製造業って考えてみると部分最適化の集積体なんですよ。そんなに簡単に組織を超えて業界全体でさっと共有できるものだったら価値がない。(楠木)
あらゆる技術はその前に人間がやってたことの外部化なんですよ。これまでスキルを持たなかった人ほど大きな恩恵を受けるはずなんですね。(楠木)
これから人を雇う時代から、AIを雇い、自分がそれを複数操りながら仕事をしていくということではあると思う。(佐々木)
IR向けの資本市場向けの情報を見るよりか、どんな人が何人ぐらい、どんなことを考えてその会社に入ってきてるのかとか、どんな人がバンバン抜けちゃってるのかとか、そっち見た方が企業の将来性とか価値がよりはっきりと分かる。(楠木)
軸足を見つけている人と、まだそこに至っていない人の違いがものすごく大きい。(楠木)
仕事を選ぶっていう本質は、AIが出てきても出てこなくても変わんない。(楠木)
関連トピック
- 製造業DX/インダストリアルAI領域全般
- スマートシティ/環境都市政策(河野氏のキャリア起点)
- 終身雇用制度と日本の労働市場の歴史的特殊性(楠木氏の議論)
- 人的資本経営・人的資本開示
- M&A後の国をまたいだノウハウ統合課題
- バリューチェーン全体最適化(設計・調達・生産技術・製造)
- 日本の製造業のグローバル展開(村田製作所・日本電産・ブリヂストン等の海外売上比率)
- AIネイティブSaaS/プロダクトのアーキテクチャ思想
- スマートHR(佐々木氏の前々職、HRサース黎明期)
- IBMコンサルティング部門のスマートシティ/コグニティブ/AI領域の歴史的展開