【自動車メーカーは今世界でどう戦うべきか】アメリカへの投資/中国の過剰生産/UBE/事業転換/カルチャー変革/ニッチトップへ/山田社長
【自動車メーカーは今世界でどう戦うべきか】アメリカへの投資/中国の過剰生産/UBE/事業転換/カルチャー変革/ニッチトップへ/山田社長
30秒サマリー
UB(旧 宇部興産)の新社長・西田裕氏が、コングロマリットからスペシャリティ化学企業への第3創業フェーズの戦略を語った。中国勢の追い上げでベーシックケミカルの優位が崩れた現状認識のもと、千葉のアンモニアチェーンとタイのラクタムチェーンを停止し、米国ルイジアナ州に過去最大規模(約750億円/5億ドル)のDMC(炭酸ジメチル)工場を建設、リチウムイオン電池電解液原料・半導体用途を狙う方針を示した。西田氏は2035〜2040年に売上1兆円・営業利益1000億円を目標に掲げ、「お客様をノックする」「希望ある科学で難題を打ち破る」というパーパスでカルチャー変革を進めると主張している。
登壇者
- 西田裕(UB株式会社 代表取締役社長/2025年4月就任): 元有機合成系の研究者出身。社長就任の理由を「ベーシック整理は前社長が完了させ、自分にはスペシャリティ化学の成長戦略が託された」と認識。「動きながら考える」「言ってから行動する」スタイルを自認。
- 聞き手(PIVOT進行役): 戦略・経営論点を引き出す役。トランプ関税・中国競争・第3創業のフレーミング等を提示。
キーポイント
- 社名・事業構造の刷新: 西田氏によれば、3年前に「宇部興産」から「UB」に社名変更し、セメント事業を三菱マテリアルとの50:50持分法会社(UB三菱セメント)に切り出し、機械事業は90年代末に100%子会社化済みで、本業は化学事業に絞り込まれた。
- ベーシックケミカルからの撤退加速: 西田氏の説明では、千葉のアンモニアチェーンを2030年目処に停止予定だったが、世界の動きが想定以上に早く2〜3年前倒し決定。タイのラクタムチェーンも停止、スペインのラクタムは継続。
- 中国勢の急速な追い上げ: 西田氏の見立てでは、10〜20年前は欧州大手が業界トップ、日本勢は2〜3番手で「美味しいポジション」だったが、中国がスケールアップ・研究開発力で追いつき「ベーシックでは追い抜かれた」。欧州大手でさえトップ維持が難しい構図。
- スペシャリティ化学の定義: 西田氏の主張では、スペシャリティとは「あったらいいな」ではなく「なくてはならない」製品で、領域を絞り込むほど「No.1でないと勝負にならない」。2番手・3番手戦略は通用しない。
- 米国ルイジアナへの過去最大投資: 約750億円(5億ドル)規模のDMC工場新設。1990年頃から続けてきた基礎研究の延長で、リチウムイオン電池電解液(車載用途の爆発的成長見込み)と半導体用途の両方で市場が見えた段階での意思決定だと西田氏は説明。
- トランプ関税の影響は限定的: 西田氏によれば、米国直接売上は全体の10%未満で原料関税の直接影響は限定的。ただし自動車・タイヤ・半導体の間接需要やEV補助金縮小の影響はあり得る。米国内で生産することで関税障壁の影響を回避する側面もある。
- 2035〜2040年に売上1兆円・営業利益1000億円: 西田氏の目標。現状の売上5000億円(旧宇部興産時代は8000億円)に対し、米国事業立ち上げで約1000億円、オーガニック成長+M&Aを積み増す絵図。M&Aは「事業を買うより人を手に入れる」ためと位置付け。
- パーパス「希望ある科学で難題を打ち破る」: 2025年4月に発表。西田氏は「環境負荷の負の側面で科学が語られる時代から、希望としての科学を取り戻す」と主張。インターナルブランディングで全従業員の「心に火を灯す」狙い。
- 「お客様をノックする」カルチャー変革: 従来は素材を提供するだけだった姿勢から、ソリューション・調理法・食べ方まで提案するイノベーションパートナーへ。さらに「社会課題をもノックする」能動的姿勢への変革を西田氏は提唱。
- スピードを重視する経営観: 西田氏は自身の若手時代の経験から、「100点の遅い納品より60点でも速い納品」を強調。「驚かせる速さ」が体感品質を80点に押し上げると主張。
詳細展開
1. UBの来歴と「第3創業」フェーズ
UBは1897年に山口県宇部市で石炭採掘からスタート。石炭採掘→採掘機械→セメント(採掘で出る土・泥の活用)→石炭由来ケミカル、と4事業に拡大し、第二次世界大戦中に4社が統合され「宇部興産」が誕生。
3年前に化学会社への一本化を宣言し、社名を「UB」に変更。聞き手はこのフェーズを「第3創業」と表現し、西田氏も同意。
主張: 西田氏は、コングロマリット成長期(第2フェーズ)が終わり、スペシャリティ化学への転換が「第3創業」だと認識。
根拠・データ:
- セメント事業は三菱マテリアルとの50:50持分法会社「UB三菱セメント」に切り出し(売上8000億円→5000億円規模に縮小)
- 機械事業は1990年代末に100%子会社化
- 海外売上比率はすでに約50%
2. 中国の台頭とベーシックケミカルの構造変化
主張: 西田氏の見立てでは、化学業界の競争構造が10〜20年で根本的に変わった。
根拠・データ:
- 10〜20年前: 欧州大手がトップ、日本メーカーは2〜3番手で「美味しいポジション」だった。欧州大手が市場開拓・マーケティングを担い、日本勢は同じ製品を高品質・高サービスで届けるだけで成立
- 現在: 中国メーカーが大型化・プラントスケールアップ・研究開発力で「追い抜いた」。欧州大手すらトップ維持が困難
- 結論として欧州・日本の各社が共通して「スペシャリティ化」を打ち出している
含意: 西田氏は「他社もスペシャリティを言っている中で、UBとしてどんなスペシャリティ会社を目指すかが差別化の核」と主張。
3. 事業ポートフォリオの再構築
主張: 西田氏は前社長時代から続くベーシック撤退を加速させた。
根拠・データ:
- 千葉のアンモニアチェーン: 2030年目処→2〜3年前倒しで停止決定(昨年度発表)
- タイのラクタムチェーン: 競争激化のため停止(タイのアンモニアは元々作っていない)
- スペインのラクタムチェーン: 競争力あり継続、特徴を持って展開
- 残す事業: 機能品(独自技術ベース)、C1ケミカル(一酸化炭素活用)、ナイトライトテクノロジー応用領域
4. 米国進出とDMC工場(過去最大投資)
主張: 西田氏は、米国進出を「長年の夢」と位置付け、過去最大の設備投資を決断したと説明。
根拠・データ:
- 投資規模: 約5億ドル(約750億円換算)、ルイジアナ州
- 製品: DMC(炭酸ジメチル)。1990年頃から基礎研究を開始、千葉に1万5000トンのマザープラントが既存
- 用途: リチウムイオン電池電解液(車載用途の爆発的成長見込み)、半導体製造プロセス原料
- 進出が今になった理由: 「市場が追いついていなかった」。民生用は伸びていたが車載用途の伸びが見え、半導体需要も加わって意思決定の条件が揃った
- 2024年には独ランクセス社からウレタンシステム事業(主に米国事業)を買収済み
反論・異論: 聞き手から「ライバルが多かったから進出していなかったのか」との問いに、西田氏は「市場が追いついていなかった」と回答し、競合理由ではなく市場成熟タイミングを根拠とした。
5. 2035〜2040年に売上1兆円目標
主張: 西田氏は、社内外への明確なメッセージとして「1兆円」の数字を掲げた。
根拠・データ:
- 現状: 売上約5000億円(セメント切り出し後)
- 上乗せ要素: 米国事業立ち上げで約1000億円、既存事業のオーガニック成長、M&A(インオーガニック成長)
- 旧宇部興産時代: 売上約8000億円(一兆円に近かった)
- 目標達成期: 2035〜2040年
- スタンス: 「売上を落として利益率を高める」のではなく「利益率を維持しながら売上成長」
意思決定スタイル: 西田氏は「言っちゃってから行動するタイプ」「化学メーカーには珍しい大胆な目標設定」と聞き手から評され、「自分を縛り、従業員を鼓舞するため」と説明。
6. M&Aは「人を手に入れる」ため
主張: 西田氏は、M&Aの目的を事業ポートフォリオ拡張だけでなく人材獲得と位置付け。
根拠・データ:
- 優秀な研究者・マーケター・技術者を獲得
- 日本・スペイン・タイの既存メンバーと「ぶつかり合い」、事業内シナジーだけでなく事業外の新領域議論を生み出す
- 2024年のランクセス買収もこの文脈
7. 研究開発投資の引き上げ
主張: 西田氏は、スペシャリティ化を本気でやるなら研究開発比率を引き上げる必要があると主張。
根拠・データ:
- 現状の化学事業: 研究開発費約400億円規模、売上比率2.5%
- 大手化学の平均: 約3%
- スペシャリティ会社の目安: 4〜5%
- UB目標: 2030年までに「2.5%→4%超」(1.5〜2倍)
- 課題: 単に増額するのではなく優秀なドクター人材の採用が鍵
8. パーパス「希望ある科学で難題を打ち破る」
主張: 西田氏は2025年4月にパーパスを刷新。インターナルブランディングを変革の起点に据えた。
根拠・データ:
- 背景: ここ数年、環境プラスチック問題・環境負荷で「科学の負の側面」が前面に出て、従業員も気持ちが沈んでいたという認識
- メッセージ: 「科学は全産業の希望」「環境問題・社会課題の解決には科学しかない」
- 実装: パーパスに加え、「未解決な未来に挑もう」というスローガンを並列で設定
- ねらい: 全従業員が自分の仕事(営業・研究・製造・管理)をパーパスのどの部分への貢献として語れる状態
- インターナルブランディング → 従業員が顧客・パートナー・後輩・家族にUBを語る → 自走するブランディング
9. 「お客様をノックする」営業姿勢への変革
主張: 西田氏は、従来の素材メーカー型から脱却し、能動的な提案型へ移行すべきだと主張。
根拠・データ:
- 従来: 素材を提供し、その料理法・市場開拓は顧客側が考えていた
- 今後: 「この素材はこう料理して、このワインに合わせて、こういうシーンで食べると美味しい」「この道具で食べてください」「お客様の口まで運ぶ」レベルのソリューション提案
- 「ファーストノック(最初に相談される)会社」から「お客様をノックする会社」「社会課題をもノックする会社」へ
反論・異論: 聞き手から「ドアノックは営業として当然では」との問いに、西田氏は「化学素材業界では珍しかった」と認めつつ、ノックの中身(素材提供→ソリューション提案)が根本的に違うと反論。
10. スピード重視の経営観
主張: 西田氏は、自身の若手時代の体験から「スピードがクオリティ」だと主張。
根拠・データ:
- 体験: 上司から仕事を頼まれ、「明日朝までかな」と考えていたら、その日の昼休み前に「忙しそうだから自分でやった」と言われた
- 学び: 100点の遅い納品より60点(合格レベル)でも速い納品の方が、コミュニケーションを通じて80〜100点に育つ
- 体感品質: 「驚かせる速さ」によって60点が80点に見える。逆に待たせると100点でも70〜80点にしか見えない
- 適用領域: 営業・研究開発のサンプル提供・レポート提供(ただし製造品質は100%が必要)
11. リーダーシップスタイル: 「道は歩いた後にある」
主張: 西田氏は、自身を「動きながら考えるタイプ」と位置付け。
根拠・データ:
- 社長就任記者会見の準備中、「座右の銘」を聞かれる想定で考えた言葉が、上司に勧められた本のタイトル『道は歩いた後にある』
- 著者は化学の大先輩(研究開発から事業化までの経験談を書いた書籍)
- 立ち止まって設計図を描くより、まず一歩踏み出して景色の変化を見る
- 「結果として振り返ると道があった」リーダーを目指す
12. 個人としてのプレッシャーと向き合い方
主張: 西田氏は「動じない」タイプではなく、プレッシャーを強く感じていると吐露。
根拠・データ:
- 眠れない夜もあると認める
- ただし朝起きると「ケロっと忘れている」性格
- 家族からは「よく寝ていた」と言われる
- 「単純な性格を生かしてやっていきたい」
重要な固有名詞・データ
| 項目 | 内容 | 文脈 |
|---|---|---|
| UB(旧 宇部興産) | 1897年創業、山口県宇部市の石炭採掘から出発した化学企業 | 動画全体の主役 |
| 西田裕 | UB代表取締役社長、2025年4月就任、有機合成系研究者出身 | ゲスト |
| UB三菱セメント | 三菱マテリアルとUBの50:50持分法会社 | セメント事業切り出し先 |
| ランクセス(独) | 2024年にウレタンシステム事業(主に米国)をUBが買収 | M&A事例 |
| ルイジアナ州DMC工場 | 約5億ドル(約750億円)、過去最大の設備投資 | 米国進出の核 |
| DMC(炭酸ジメチル) | リチウムイオン電池電解液原料、半導体プロセス原料 | 米国新工場の主力製品 |
| 千葉アンモニアチェーン | 2030年目処→2〜3年前倒しで停止決定 | ベーシック撤退の象徴 |
| タイ ラクタムチェーン | 競争激化のため停止 | ベーシック撤退 |
| スペイン ラクタムチェーン | 競争力あり継続 | スペシャリティ志向で残す事業 |
| ナイトライトテクノロジー | UB独自開発の技術、C1ケミカルの基盤 | 米国進出の技術的根拠 |
| 売上目標 | 2035〜2040年に1兆円、営業利益1000億円 | 中長期目標 |
| 現状売上 | 約5000億円(旧宇部興産時代は8000億円) | スタート地点 |
| 米国売上比率 | 全体の10%未満 | トランプ関税の影響限定の根拠 |
| 海外売上比率 | 約50% | グローバル展開の進捗 |
| 研究開発費 | 化学事業で約400億円、売上比2.5% | 4%超への引き上げが課題 |
| パーパス | 「希望ある科学で難題を打ち破る」 | 2025年4月発表 |
| スローガン | 「未解決な未来に挑もう」 | パーパスとペアで運用 |
| 『道は歩いた後にある』 | 上司に勧められた書籍。化学の大先輩の経験談 | 西田氏の座右の銘 |
| バイデン政権インフレ抑制法 | 環境投資補助金。トランプ政権下で影響可能性 | 米国EV市場リスク |
アクションインサイト
- 西田氏の「ベーシックは2番手で美味しかったが、中国の追い上げで構造が変わった」という議論を踏まえれば、自社の主要事業がコモディティ化のどの段階にあるか(欧州大手モデルの享受期/追いつかれ期/逆転期)を一度棚卸しする余地がある。
- 西田氏のスペシャリティ定義(「あったらいいな」ではなく「なくてはならない」、2〜3番手では勝負にならない)の論点を借りれば、自社の製品・サービス群を「No.1でないと意味のない領域」と「2〜3番手でも事業として成立する領域」に分類して投資配分を見直す視点が得られる。
- 西田氏が示した「M&Aは事業を買うより人を手に入れる」フレーミングは、買収判断において事業ポートフォリオ補完だけでなく研究者・マーケターのケミストリー(既存メンバーとの化学反応)を評価軸に加える示唆になる。
- 「お客様をノックする」「社会課題をもノックする」姿勢の対比(受動的ファーストノック vs 能動的アウトバウンド)は、自社のBtoB営業・素材/部品ビジネスに当てはめると、ソリューション提案の解像度を上げる起点になりうる。
- 西田氏のスピード論(60点で速く出す→対話で80〜100点に育つ/100点を遅く出すと70点に見える)は、提案資料・営業初動・社内議論にも応用可能な原則として参照できる。ただし「製造品質は100%が必要」という線引きの議論を踏まえる必要がある。
- パーパス策定→インターナルブランディング→従業員が外部に語る→自走ブランディング、という西田氏の議論の流れは、外向きのPRに先立って内向きの意味づくりを優先する組織変革プロセスのモデルとして検討の余地がある。
引用したくなる発言
「あったらいいな、ではなく、なくてはならない製品。日Topにならないといけない。つまり2番手、3番手では勝負にならない」(西田氏/スペシャリティの定義)
「お客様をノックし、社会課題をもノックする」(西田氏/変革姿勢)
「希望ある科学で難題を打ち破る」(西田氏/2025年4月発表のパーパス)
「道は歩いた後にある」(西田氏の座右の銘/上司に勧められた本のタイトル)
「眠れない人とかありますか? ありますね。あ、ありますか?くよくよするとこもあるので」(西田氏/プレッシャーへの率直な吐露)
「M&Aをやるってことは事業を買うというよりも人を手に入れるっていうこと」(西田氏)
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- インターナルブランディングと従業員エンゲージメント: パーパス経営の文脈
- 書籍『道は歩いた後にある』: 化学業界先輩の研究開発→事業化経験談
- 第3創業フレーミング: コングロマリット型成長の終焉と、絞り込み型成長への転換